大阪城公園よろず相談

大阪城公園を中心に野宿者支援活動を続けている大阪城公園よろず相談のブログです。

2019年2月16日(土)第16回「センターの日」──労働者のためにやらんとあかん

 ものすごい風で、映画を上映していてもスクリーンが倒れ、コーヒーを入れようにもなかなかお湯が沸かないという大変な条件下で行いました。おまけにブルーシートを忘れたり、キャンプテーブルを忘れたりしました(あとで持ってきてもらいました)。

1970年頃の話

 準備をしていると、まだ並べ終わらないくらいに「何をやってるの?」と話しかけられました。今はもう働いていないけど、20歳の時、1970年くらいに大阪に来たそうです。関東の生まれで、自衛隊員として横須賀港で働いていたとのこと。米軍のミッドウェイ艦は艦橋がビルの7階分くらいあり、「センターと同じくらい大きいですか?」と訊くと、「もっと大きいよ!」と教えてもらいました。

「1970年代はたくさん人がいて、センターの中で仕事を探していたら、肩が当たるくらいだった。あの頃は日当も良くて、お金もあるし、使い切ってしまうまで働かなかった。明日働けばええと思うからね」

 ふと知り合った人に仕事の昔話ができる。これも釜ヶ崎という場所がそういう出会いを生み出す力を持っているからでしょう。

高倉健『昭和残侠伝』

 これまで『太陽の墓場』『ビリケン』と釜ヶ崎と新世界を舞台とした映画を鑑賞してきました。次は何にしようかと相談していて、高倉健は人気があるということだったので、『昭和残侠伝』を選びました。

 とはいっても、「センターの日」のメンバーのほとんどは実は観たことがありませんでした。高倉健のどの作品を選んだら良いのかもわからず、はたして「センターの日」で上映しても良いものなのかと不安を抱えながらのスタート。

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 いつも古本コーナーを楽しみにしてくれている人が「これ、私が中学校の頃の映画ですよ!」と教えてくれました。他にも同じようなことをいう人がいらして、なるほど今釜ヶ崎にいる人たちの青春の共有体験が1960年代後半くらいの娯楽映画なのだなと気づかされました。

 「左翼がヤクザもんの映画やってええのか?」とからかってくる人もいました。

 最初は集まりが悪くても路上ライブ用のスピーカーで音を流すとすぐに人だかりができます。なるほど、音というのは目には見えないけれど、場所を作り出す道具の一つなのだなと気づかされました。

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 また、この日はお菓子を載せるザルを忘れました。段ボールを切り貼りして代用しましたが、映画を見ている人にお勧めする際に、このザルがないと微妙にやりにくい感じがしました。ザル一つでも決して見栄えや飾りではなく、人と人の間を円滑にとりもつ役割をはたしているようです。

 任侠ものでも『仁義なき戦い』は「あかん」という意見をもらいました。善悪がはっきりしていなくて、ごちゃごちゃしている。同じ菅原文太なら『トラック野郎』が良いとのこと。『トラック野郎』も今後の候補にあげておくとして、次回はさわりだけ観て食いつきの良かった『男はつらいよ』の第1作目を観たいと思います。

時代小説が好き

 ある人にどんな本が好きかお訊きすると、時代小説が好きだということで、歴史小説と時代小説の違いについて教えていただきました。特に好んでいるのは江戸時代を舞台としたもので、大坂だと高田郁が面白いそうです。新今宮文庫にある推理物も読んでいたが、今は時代小説がいいとのこと。「勉強にもなるしね」。

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 なるほど、時代小説というのは親しみやすいジャンルなのだろうかと思いました。推理小説だと、新しい作品は新しい風俗を取り入れていくし、古い作品は古い作品で読みづらいものになってしまうかもしれません。その点、時代小説なら、切り口は変わるとしても、江戸時代なら江戸時代という了解事項があります。その了解事項をふまえたうえでオリジナリティを出そうとすれば、作家さんも埋もれた事実を発見してきて物語に織り込むといった工夫をするでしょう。

「車を避けてくれ」

 荷物の積み下ろしのためにセンター正面に停めていた車を「縁石の前まで出してくれ」という要望がありました。いつもそこを定位置にしている人の邪魔になってしまったかとすぐに動かし、その人の邪魔にならないようにUターンして左寄りに停め直しました。

 ところが「縁石の前まで」というのが大事なポイントだったようです。帰り際に「縁石の前まで出して欲しいんや。縁石の前までなら駐禁にならんからな。この屋根の下は寝る人おるから」と再度言われました。この人は「みんな」のために代表して意見してくれていたのだとわかり、とても申しわけない気持ちになりました。

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 夜に向けて定位置を早めにキープしたいという思いもあるのかもしれません。見えないルール、見えない気配りを教えていただいたようで勉強になりました。

テーマソングを決めるとすれば

 音には人を集める力があるということに気づき、「センターの日」のテーマソングを決めて流すようにしたらいいのではないかとメンバーと話しました。『王将』か『唐獅子牡丹』か、オーロラ輝子がいいのではと意見が出ました。みなさんの心に残る一曲を教えてください。その場でスマートフォンで探して流してみんなで聴くような企画をやっても面白そうです。

労働者のためにやらんとあかん

 メンバーの一人がどなたかと話し込んでいると思って見ていたら「今白手帳何人くらいかわかりますか?」と訊かれました。話を聞くと「これは誰のためにやっとるんか? 労働者のためか?」と問われました。労働者はもちろん、センターを利用する人のためにやっているというようなことを答えると「労働者のためにやらんとあかん」と言います。また「手弁当でやってても大きなことはできない」「行政を巻き込んでいかないといけない」と。

 まちづくりのように運動も行政と提携していかなければいけないというお考えなのかと思ったらそうではなく、「大勢で市役所に押しかけて要求しないといけない。そうやってセンターを夜間解放させたこともある」と。「一人一人で言ってもダメだけど、大勢で押しかけたら言うことを聞かせたりできますよね」と答えると、ようやくわかってくれたかという感じで笑顔を見せてくれました。

 この人は、現在は鹿児島に帰って暮らしているが、毎年決まった時期に釜ヶ崎の様子を見に来るのだそうです。こうした戦いの記憶、場所への思い入れが引き継がれていることを感じさせられました。

どこでやるのか問題

 センター閉鎖の期日が迫り、4月以降の「センターの日」をどこでどういう形でやるのかを考えなければいけなくなってきました。

 仮移転先の西成労働福祉センターの前でやるのか、現センターのシャッターの前でやるのがいいか。シャッターの前でやるにしても、どこでやればいいのでしょう。正面でやれば沿道の人の目には留まるだろうけど、釜ヶ崎のみなさんに発見してもらえるかわかりません。シャッターが閉まれば見通しもきかなくなります。センター閉鎖はそういった点でも悪影響をもたらしそうです。

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 4月になって、センターを利用している人たちがどこへ行くのか、どこか別のたまり場のような場所が形成されるのか。みなさんがもっとも頭の痛いことかと思いますが、こればかりはふたを開けてみなければわかりません。

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 とりあえず4月は、いつも通りコーヒーは提供しつつ、映画はお休みして、みなさんから現状のお話を聞かせていただきたいと考えています。

毎月第三土曜日は「センターの日」

 第三土曜日の午後に「センターの日」を開催するという方針は4月以降も変わりません。同じ時間に同じ場所で何かが行われることは、釜ヶ崎を作ってきた基礎的な条件の一つだと考えています。

 私たちがふだん大阪市内の各所で行なっている夜回りや相談活動のなかで、「センターが閉鎖されるから早めにここに移ってきた」いう人と再会しました。野宿する人たちが昨年末から顕著に増えている公園もあります。釜ヶ崎の外でお会いすることがあれば、「こたつ出して何かやっとったな」と声をかけてください。そして、第三土曜日にはセンターでお会いしましょう。

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