大阪城公園よろず相談

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大阪市の不可解な資源ごみ回収規制条例案

とつぜん発表された資源ごみ回収規制条例案・その問題

 2016年12月1日の毎日新聞において、大阪市が古紙などの資源ごみを無断で持ち去る業者を規制する条例案を議会に提案する方針を明らかにしたことが伝えられています。実際には条例の改正であり、元の条例は大阪市廃棄物の減量推進及び適正処理並びに生活環境の清潔保持に関する条例 というようです。

 「路上生活者らの自立手段を奪う可能性があるとして、空き缶などは今回の規制の対象にしない」とされていますが、今後規制対象が広げられる可能性があります。また、ダンボールや新聞などの古紙回収で生計を立てる野宿者がいることを考えれば、今回の条例案はすでに一線を越えてしまっています。

条例の根拠は「地域活動協議会」?

 今回の条例案を提案するきっかけとして、「地域活動協議会」なる団体の財源確保となる資源ごみが持ち去られていることが問題としてあげられています。吉村市長は「地域活動の財源確保に役立つ重要な施策だ」と述べ、規制の必要を強調したそうです。

 この「地域活動協議会」について調べると奇妙なことに気づきます。記事の中では「2014年から小学校単位のNPOなどでつくる」ものだと説明されています。大阪市のホームページを調べると、この地域活動協議会は市政改革プランに位置付けられ、政策的に推進されているものであることがわかります。

 地域活動協議会は201641日現在、合計325地域で形成されているそうです。これらの組織が資源ごみ回収に取り組み、ことごとく被害にあっているとなれば大変なことです。ところが、実際にここで問題とされているような方式で資源ごみ回収に取り組んでいるのは20ヶ所に過ぎないことが記事からわかります。また、その20ヶ所のうち何ヶ所に、どのくらいの頻度で、どの程度の被害が出たのかは記事からはわかりません。どのような状況で「持ち去り」の被害にあったのかもわかりません。

 「被害規模の問題ではない」との反論があるかもしれませんが、大阪市民の生活全体に影響を及ぼす条例の改正がこのような恣意的な根拠で行われて良いのでしょうか? 条例に定めずとも、回収方法や保管方法に留意することで解決を図れるように思われます。

短期間のパブリック・コメント

 この件に関して、大阪市パブリック・コメントを募集していますが、募集期間は20161214日から2017112日という短期間に、条例案発表から議決までの間に合わせのように実施されたものです。そして、集まった意見はたったの915件です。

 パブリック・コメントの中で、「「古紙・衣類を他者が無断で持ち去る行為が多発している」とあるが、どれくらい行為が多発しているのか」との質問に対し、大阪市市政モニターアンケートの結果をもとに「古紙・衣類等の持ち去り行為を8割以上の方が目撃したことがあるとの回答結果になっております」と答えています。しかし、回答者は「持ち去り行為」をどのように「目撃」したのでしょうか? どうやって「持ち去り」だと判断できたのでしょうか?

 ちなみにアンケートでは「古紙・衣類等」ではなく、「古紙・衣類・アルミ缶等」となっています。アルミ缶回収している野宿者を見かけたことを「持ち去り行為」と拡大解釈している可能性があります。

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市政モニターアンケートの悪用

 さらに、この市政モニターアンケートには「持ち去り行為」についての意識も尋ねており、その集計結果を見ると、「取りしまる必要がある」32.0%160人)に対し、「特に気にならない」28.4%142人)、「取りしまる必要はないが出来ればやめてほしい」39.6%198人)となっています。つまり、回答者の7割近くが取りしまりは必要ないと考えていることになります。

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資源ごみ回収規制は失敗する

 資源ごみ回収行為を規制し、罰則を設ける条例は以前から全国に見られるものですが、条例の目的に対して実際の対処方法がかみ合っていなかったり、地域のトラブルや対応コストを増やす結果に陥っているケースが多いように見受けられます(参考)。

 実際の条例案では「持ち去り行為」だけでなく、「譲受け行為」も規制対象としています。買取業者は持ち込まれた資源ごみが「持ち去り行為」によるものだとどうやって判断できるのでしょうか? また、目的と対象が抽象化されており、報道された際には見られなかった項目が付け加えられています。

 条例設置の本来の目的であった「悪質な持ち去り業者」よりも、目につきやすく差別的なまなざしで見られがちな野宿者が目をつけられ、時給にすれば100円にもならないような重労働によるわずかな稼ぎを奪われる結果に終わるのです(参考)。

 大阪市会の会議録を調べると、数年前から公明党市議が何度か「持ち去り」と規制に言及していることがわかります。20161130日の本会議の公明党の一般質問で、この件について触れられており、すぐさま条例案の提案が発表されたことになります。市政改革プランに埋め込まれた「地域活動協議会」を強引に口実として持ち出している点も気になります。

 この条例案は、20173月末の本会議で議案提出され、そのまま議決されてしまう可能性があります。市民の目に触れないところで、根拠も怪しい条例案が滑り込みで可決されようとしています。このずさんな条例案は、市民の関心が集まれば、まだ止められるはずです。皆さんの知恵と力を貸して下さい。

メモ