大阪城公園よろず相談

大阪城公園を中心に野宿者支援活動を続けている大阪城公園よろず相談のブログです。

「大阪市ホームレスの自立の支援等に関する実施計画【2019(平成31)年度~2023(平成35)年度】(素案)」についてのパブリック・コメント

 「大阪市ホームレスの自立の支援等に関する実施計画【2019(平成31)年度~2023(平成35)年度】(素案)」についてのパブリック・コメント募集( http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/fukushi/0000454696.html )に対して、大阪城公園よろず相談では以下をメールにて提出しました。

 私たちは大阪城公園よろず相談として、20年近くに渡って野宿者支援活動をしてきました。

 この度、「大阪市ホームレスの自立の支援等に関する実施計画【2019(平成31)年度~2023(平成35)年度】(素案)」についてのパブリック・コメント募集に際し、意見を送らせていただきます。

 計画全体として気になったところを大まかにまとめると4点あります。

  1. やたらと「自立」を強調し、自立とは切り離されたところで保障されるべきことまで、自立支援の問題にはめ込んでしまっている点
  2. 「ホームレス支援」とは関係のないことが計画に含まれている点
  3. 現に野宿していたり、野宿の経験のある人への対策は書かれているが、新たに野宿生活に陥るリスクへの対策は見られない点
  4. 「あいりん地域」の「西成特区構想」に関わる動向を含めた取り組みへの懸念

 以上の4点の詳細、およびその他、気になった点についてはページ数を明記した上で以下にコメントを書きましたので、ご参照下さい。

p.1 野宿生活ないしホームレス生活を送る人びとを指して「ホームレス」と称しているのは不適切です。散々指摘されていることですが、「ホームレス」とは状態を指す言葉であり、人間の固有の属性を表現する言葉ではありません。「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」や国の施策における呼称がどうあれ、真摯に向き合うつもりがあるなら、「ホームレス生活(野宿生活)にある人が」などとすべきでしょう。実際に「野宿生活を余儀なくされた人」(p.1)という表現も見られます。一方で「野宿生活を脱した後、再路上化するホームレス」(p.1)という表現も見られます。野宿生活を脱したのであれば「ホームレス」ではないのに、相変わらず「ホームレス」であり、「ホームレス」になったようにとらえた書き方は時制の認識が無茶苦茶で、文法的にも誤っています。

 ホームレス問題にかかわる人たちのあいだでは「広義のホームレス状態」と「狭義のホームレス状態」の区分はすでに常識とも言えるものです。「屋根のある場所と路上を行き来する」若年層や、再路上化への対策の必要性を認識しているなら、用語にはもっと敏感であるべきでしょう。

 「公共施設の適正な利用が妨げられる」ことと「ホームレスが襲撃され被害を受ける」ことを、野宿生活者が「公共施設等を起居の場として日常生活を送る」ことによって引き起こされる事案として、同列に並べることにも疑問があります。そもそも、これらは因果関係の下に位置付けるべきものではありません。まるで「お前らが公共施設で寝起きしているのが悪い」と言わんばかりです。また、公共施設でなくとも野宿生活をしていれば襲撃の危険があることに代わりはなく、ことさらに「公共施設」を強調している点もおおかしいと思います。

p.2 「あいりん地域」に日雇労働者が多数存在するのは、高度経済成長期に政策的に集められたためです。行政に責任の一端があることを自覚して下さい。

p.10 「今のままでよい」を「自立意欲の低下」と評価するのは短絡的です。野宿生活者の多くが何らかの仕事をしています。また、自立意欲とは何を指すのかも曖昧です。

 「就職するために望む支援」のうち、「アパートの確保」55.2%が最も高いことを考えれば、無条件に住宅を保証する施策があってもよいはずです。そうなればそもそも「ホームレス」ではなくなります。生活保護に抵抗感を持つ人でも利用できるような制度の構築、実施を検討して下さい。

p.11 テント等の数が減った背景には、行政代執行を含む強制立ち退きが含まれています。また、「テントを建てさせない」ような働きかけもしつこくやっているはずです。「公共施設の適正な利用の回復の取り組み」がこのような取り組みを指すのであれば、単に野宿生活をする人たちをより苦しい状況に追い込んでいることになります。

p.12-13 自立支援センターの入所期間が短期間に区切られていること、原則として再入所できないといった問題については改善されているのでしょうか? 履歴書に自立支援センターの住所が書いてある時点で採用選考から弾かれてしまう問題が起きていることを考えれば、住宅の確保を最低限保証すべきです。「賃貸住宅型自立支援事業」がその一部なのかもしれませんが、住居の確保は自立支援とは切り離して最低限の権利として保証すべきです。繰り返しになりますが、住居があれば、少なくともホームレスではありません。

p.13 「あいりん日雇労働者自立支援事業」については、西成特区構想の中で推進されている「あいりん地域まちづくり会議」の「労働施設検討部会」で、事業の根幹を揺るがすような議論が進んでいます。労働者が日頃から利用するあいりん総合センターの仮移転、建て替え計画は、仮移転中の労働者の過ごし方や、建て替え案のないままスケジュールのみ前倒しされ、現センターを閉鎖するといった本末転倒なことがなされています。西成労働福祉センターの仮移転先では、相対紹介を廃止する動きも決定しているように聞いています。相対紹介が望ましい就労形態であるか否かは議論の余地があるとしても、求人業者の足が遠のくような無計画な仮移転では意味がありません。また、西成労働福祉センターとあいりん職安に仕事が集まるような労働政策をしっかり実施していくべきです。建設下層労働はますます見えづらく、アンダーグラウンド化しています。寄せ場の求人数だけの問題ではなく、不安定就労者全体にかかわる問題として、地域の労働関連機関の役割と機能の強化をして行くべきです。

 また、西成特区構想によって「あいりん地域」がきれいになった、良くなったと大阪市はアピールしていますが、野宿生活を送る人たちの姿は絶えず、そればかりか、排除の圧力は強まっています。表層的な成果を擬装するのではなく、生身の労働者の生活と向き合った行政を心がけて下さい。

第3 ホームレス対策の推進

p.16 「ホームレス自らの能力の活用を図る」とあるように、どこを読んでも個人責任を強調する姿勢に疑問を覚えます。「既存の各種施策も活用しながら」では根本的な問題解決にはなりません。路上生活を送る人がいなくならないのは行政の支援や政策の欠陥が原因であることを自覚し、強制立ち退きをせず、真摯な態度で粘り強く問題解決には取り組まねばなりません。

p.18 自立支援センターの退所者へのアフターケアがどこまでなされているのか疑問です。退所者へのアフターケアにまつわる報告を耳にしたことがありません。不利な立場に置かれた人びとが、安定した職につき、安定した住居を失わないようにするためには何が必要かを明らかにするためにも、アフターケアや追跡調査には力を入れる必要があります。

 「店舗から支援要請があれば支援を行います」とはどういう意味でしょうか? 実施計画の記述だけでは判断ができません。実施計画自体が十分に練られていないのではないでしょうか。

p.19 「地域における生活環境の改善」の項目に挙げられている内容は「ホームレスの自立の支援等」の計画に掲載すること自体不適切です。野宿生活を送る人たちにとっての問題ではないものが掲載されているのは奇妙なことだという意識を持って、なにが問題なのかを問い直すべきです。

 人権擁護という意味では、この計画の中にも見られる事実の混同、文言の意味不用意さを改めるところから始めて下さい。

p.20 数値目標をあげて施策を推進するのは場合によりけりではないでしょうか。当事者にとって望ましい選択肢が用意されていない状態で、絞られた数値目標を上げてよいものか、疑問が残ります。

 「自立支援センター入所者の80%以上が就職できるようにします」という目標は結構なことですが、残りの20%はどうするつもりなのでしょうか。期限切れで退所になっても、それは仕方ないということでしょうか。言及がないのは施策の不備ではないでしょうか。

 「あいりん地域における日雇労働者の相談者の10%以上を」という目標数値の低さが気になります。また、「相談者の」とある意味もよくわかりません。

p.26 「ホームレスに対し緊急に行うべき援助について」ですが、野宿生活者が救急搬送された際に対応に当たる「大阪市緊急入院保護業務センター」は廃止すべきです。特別なケースに対して手厚い対応がなされるというより、通常とは異なるイレギュラーな対応の温床となっているように見受けられます。どのような状況の人であれ、等しく人権に配慮した救急対応がなされるように、各行政窓口の体制を指導監督することで問題解決が可能です。「大阪市緊急入院保護業務センター」の担当になったがために病院をたらい回しにされたり、生活保護で施設に入れられたまま、アパート生活への移行ができなくなるケースも見たことがあります。

 生活保護にかんしては、区役所の窓口で未だに水際作戦による申請拒否が行われています。担当の役所の移管のタイミングで保護を打ち切るといった悪質な行為についても耳にしました。大阪市では「生活保護の適正化」といって、不正受給の取り締まりにばかり力を入れてアピールに熱心なようですが、困っている人を助けるという意味での「適正化」の方が急務かと思われます。

p.27 野宿生活を送る人たちを強制立ち退きさせる行政が人権擁護を口にしても欺瞞にしかなりません。地域からの苦情があったとしても、強制立ち退きはしないことを説明し、地域の人と対話することこそ、人権擁護につながるはずです。ある公園では大阪市役所の職員から「お前のような乞食はブタ箱に入れ」と恫喝されたという相談を受けたことがあります。内部の意識改革に力を入れて下さい。

 繰り返しになりますが、「生活環境の改善に関する事項」は、ホームレス状態にある人たちへの支援とは何の関係もありません。計画からの削除を求めます。

 冒頭に「新たに野宿生活になることを防止する」とありますが、再路上化については触れられていても、新たに野宿生活になることを防止するための施策が盛り込まれているとは思えませんでした。なぜ人は野宿生活になるのかについて、体系的、構造的な理解が不足しているようです。きれいごとを並べるのではなく、確かな現状認識を持ち、「ホームレス」一般ではなく、一人一人が困難を抱えたふつうの人たちであることを理解した上で、誰も排除されない社会を実現する行政を実践して下さい。

 

 大阪城公園よろず相談一同